【武田邦彦・宮脇淳子】 国民国家と民族の誕生



国民国家と民族の誕生宮脇淳子
◆「国民国家」を生んだアメリカ独立とフランス革命
  ともに、1789年のこと。
◆国民と国境と国史の誕生
1793年 ルイ16世処刑
パリ市民が暴力で奪ったフランス王室や貴族の財産(領地・領民など)の所有権を
正当化するものとして、国民(nation)が生まれた。
国民の範囲を確定するため国境が引かれ、
国民は国語と国史を共有するものとされる。 
⇒民族紛争・国境紛争が始まる。

国民国家 = 近代化(modernization) 
「国家」stateはもともとラテン語で、「君主の位・身分・財産」のこと。
「国民」nationは、同郷の大学生組織のこと。
1795年のナポレオンのクーデター以降、フランスの国民軍が精強で
ヨーロッパを席巻したのでヨーロッパの君主国(英独露など)も、
国民国家体制を採用して立憲君主制constitutional monarchyとなる。

◆「民族主義」nationalism = 「国民主義
民族にはヨーロッパ語の原語はなく
20世紀初めの日露戦争前後に出現した、純日本産の言葉

民族の定義:「自前の国家を結成する資格がある一つの国民として、
         他人から認められたい人々の集団」。
独自の「国民」として認定されれば、
「国家」を作って「国際連合」United Nation に加盟し、経済援助を受けられる。
これが「民族主義」の誘惑である。

◆日本の国民国家
1868年 明治維新に成功した日本では、生存のための国民国家化に踏み切る。
当時、国民国家を形成していない民族は、他の国民国家に侵略され、植民地にされる運命だった。
幕末の危機感から生まれた「富国強兵」は、日清・日露を経て一応の完成を見る。
中国文明に由来する一切の制度(律令制など)を放棄し、西欧・北米の制度(万国公法・憲法など)に全面的に切り替えた。
ヨーロッパ語の翻訳に適した国語が開発され、漢文訓読体に代わる欧文直訳体の文体と、漢字を使った新しい語彙が開発された。
日本人の留学生は、「国費で欧米に留学させてもらえたのだから、得た知識を全部の日本人に伝えよう」と、欧米の知識をどんどん翻訳した。この流れは杉田玄白前野良沢ら「蘭学事始」の
江戸時代からあったが、質・量ともに明治・大正期に著しい。

◆日本から中国に入った語彙の例
人民 社会 主義 現代 改革 開放 同志 革命 闘争 運動 進歩 民主 思想
理論 階級 批評 計画 右派 学校 学生 体操 国際 代表 論文 現実 常識
理想 伝統 保健 栄養 出版 電波 業務 作用 意識 進化 工業 広場 入口
出口 場合 取消 展覧会 図書館 新聞記者 生産率・・

中華民共和国⇒中国の国名も、半分以上が日本人が作った和製翻訳語
現代中国語の7割が日本人が開発した語彙である。

朝鮮半島も、同様である(ミンジョク←民族・ヤクソク←約束・トロ←道路・ガジョク←家族・サンソ←酸素・タンソ←炭素・チリョ←治療・セタッキ←洗濯機・・)。「日本語(漢字)の朝鮮読み・朝鮮なまり」は、彼らが漢字を捨てたから目立たない。

漢字文化圏(中国・北朝鮮・韓国)が自国語で高等教育(近代化教育)を受けられるのは、国を挙げて翻訳事業を行った日本人の成果を輸入したからだ。

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