【木佐芳男】 日本の憲法が一度も改正されない理由はマインドコントロール(3)

8)主流を占めてきた東京裁判史観
 GHQのマインドコントロールから脱するには「認識する」ことだ。過去に何が行われたか、自分たちの心がどうやって操作されたかを知ればトリックに気づく。
 日本の戦後は、東京裁判によって作られた東京裁判史観」という歴史観が主流を占めてきた。日本の侵略戦争を問題にし、それを反省する。アメリカの第二次大戦での戦争犯罪や、欧米列強のかつての侵略戦争などは一切気にせず、日本だけが悪かったとする考え方だ。この立場を取る者が日本の知識人であるかのように思われた時代がずっとあった。
 終戦から6年後の1951(昭和26)年、マッカーサーは米国議会で「日本の戦争は、主に安全保障のためだった」と公式に証言した。また、米大統領を務めたフーバーも「日本の戦争は自衛目的だった。仕掛けたのはルーズベルト政権側だった」と回顧録で述べている。だが、日本の大半のメディアは、こうした証言や著述を報じない。
9)改憲側がすべきことは、脱マインドコントロール
 イギリスで、EU離脱の是非を問う国民投票が行われた。日本で憲法を改正しようとする場合、このイギリスの国民投票は参考になる。EUからの離脱は、論理的に考えれば「とどまったほうがいい」。だが、感情的には「離脱したい」。この論理と情緒の戦いで、英国民は煽(あお)られ、情緒が勝ってしまったのだ。

 日本で憲法改正をしようとすれば、国会で3分の2以上の議員が賛成し、発議すれば、国民投票にかけられる。憲法改正のメインは9条。制定時からは大きく国際情勢が変わって、北朝鮮からミサイルが飛んでくる恐れがあり、中国が尖閣諸島だけでなく沖縄も狙っているときに、自衛隊の存在を憲法に明記し、しっかり守れるようにするのか、そのようにすると戦争になってしまうからそのままで行こうと考えるか。

 人はなかなか論理的には考えられず、「改憲は戦争への道だ」「子や孫を戦争に行かせたくない」「兵隊にとられたら困る」などと不安を煽るほうが有利だ。護憲派は、必ず情緒に訴える。改憲派がなすべきなのは、戦後の日本はマインドコントロールされてきたという事実を理解してもらうこと。冷静に歴史を振り返り、「脱マインドコントロール」を戦略として展開することだ。
 
 木佐芳男(きさ・よしお) 昭和28年、島根県出雲市に生まれ、53年、読売新聞社に入社。ニューデリー特派員や憲法問題研究会メンバー、ベルリン特派員などを経て平成11年、フリーに。両親の世話のため25年に出雲市へUターンした。主な著書に「〈戦争責任〉とは何か」「『反日』という病」など。