温暖化すると日本の植生帯はどうなる?(3)草原植生

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次に、草原植生から見てみます。
出典:「日本の自然草原の植生帯区分と温暖化影響」
    http://cse.naro.affrc.go.jp/sasaki/global/natural/natural.html

1.気候要因からみた自然草原の植生帯区分
 自然草原の植生型を、以下の4つに区分しました。
(1)亜寒帯+亜高山帯:ネザサ以外のササ(ミヤコザサ、チシマザサ、クマイザサ              等)を代表的な種とする。
(2)冷温帯:     シバを代表的な種とする。
(3)暖温帯:     アズマネザサとシバを代表的な種とする。
(4)亜熱帯:     それより南を亜熱帯とする。

 区分の際の境界線は、気候要因によって定めた。気候要因としては、次の4つの要因を用いました。
(1)寒さの指数:(各月について、もしも月平均気温が5℃以下であれば、                   「その値-5」を加えていくことにより得られる値)。
(2)暖かさの指数:(各月について、もしも月平均気温が5℃以上であれば、                 「その値-5」を加えていくことにより得られる値)。
(3)最暖月平均気温
(4)最大積雪深
こうして、植生帯の区分が可能となりました(下図のA)。

 標高の高い土地のシバ草原については、これらだけではシバの分布限界を説明できなかったため、緯度と分布限界標高を取り入れた補正式で補正しました(下図のB)。
イメージ 1]
 上の図の中で、青と緑の境界がシバの北限で、寒さの指数-35以上かつ最暖月最低気温17℃以上にシバが分布していることを示します。緑と黄色の境界がアズマネザサの北限で、暖かさの指数100以上かつ最大積雪深40cm以下でアズマネザサが分布していることを示します。黄色と赤の境界がシバの南限で、暖かさの指数170以上ではシバ(一般にノシバと呼ばれる種)が生育しにくいことを示します。

参考文献:
西村 格・佐々木寛幸・西村由紀(2001)日本における自然草原の気候要因から見た植生帯区分とその温暖化による影響 2.自然草原の植生型と気候要因の関係.日本草地学会誌47(1),86-92.

2.植生帯区分の温暖化による変化予測

 気温が上昇するという直接的影響だけでなく、最大積雪深が変化することによる影響も考える必要があります。下図は最大積雪深40cm以下の領域が今後どのように変化すると予測されるかを示しています。
イメージ 2
 次に、30年後と60年後における植生帯の区分の変化予測を下図に示します。
イメージ 3
 この図から、30年後には北海道では大きな変化はないが、それ以外の高標高地帯では亜寒帯が後退・消滅していることがわかります。60年後には、北海道平野部まで冷温帯となります。また積雪の減少に伴い、北陸から新潟平野にかけては暖温帯となります。

 次に、100年後における植生帯の区分の変化予測を下図に示します。
イメージ 4
 この図から、本州以南の亜寒帯はほとんどなくなり、亜熱帯が拡大することがわかります。また、北海道における植生帯の区分が大きく変化するようすがはっきりわかります。

 以上のように、植生帯区分は温暖化に伴い変化しますが、あまりにも急激に気候が変動すると、分布域の移動がそれに対応できない植物種(移動が遅い種類や、高山などに周囲から孤立して隔離分布している種類)は絶滅してしまう可能性がありますので、今後は代表的なものだけでなく、多くの種について追跡・保全していく必要があると思います。

参考文献:
西村 格・佐々木寛幸・浦野豊・小森谷祥明・井上聰・西村由紀(2001)日本における自然草原の気候要因から見た植生帯区分とその温暖化による影響 4.気候環境から見た日本の自然草原の植生帯区分とその温暖化による変化予測.日本草地学会誌47(1),102-106.(以上、引用終わり)

 草原植生による植生帯は、森林植生による植生帯と少し差があるのですが、草原植生の方が気候帯を直接的に反映しやすいと思われます。積雪の深さは、草の生存に影響しますが、樹木の場合は草ほどには影響されませんからね。
 第1図のBで、冷温帯(シバ)の北限が、ブナ林の北限(北海道・黒松内低地帯)とほぼ一致するを、興味深く眺めました。ブナ林の南限は鹿児島県高隈山ですが、ここは既に森林植生でもブナ林の生育適地ではなくなっています。
 温暖化で植生について言われることは、

温暖化すると、高山植物を含めた北方系植物が、南方の土地から、低い標高の土地から、消えて行くだろう

ということです。
 高隈山の南限のブナ林の動向に着目すれば、温暖化が日本の植生に与える影響を占うことになるのかも知れません。