植物レッドリストから何がわかる?(2)

 次は固有種率についてです。
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図3.固有種率の高い都道府県ベスト5

固有種率が0%の都道府県:宮城 山形 茨城 栃木 富山 福井 大阪 京都                   奈良 広島
  長野県の固有種率:6%
静岡県の固有種率:4%

 これは各都道府県に存在する絶滅危惧類の数に対するその都道府県固有の絶滅危惧類の割合を示したものです。沖縄・北海道が多いのはある程度予想していましたが、意外なところでは東京がはいっています。これは、東京が小笠原諸島などの南の離れ小島等を含むためでしょう。東京の絶滅危惧類及び固有種の多くはこの南の島に集中していると思われます。一方先ほど絶滅危惧類の多い都道府県に入っていた静岡県と長野県はどうでしょうか。ご覧のように長野県は6%、静岡県に至っては4%しか含まれていません。これらのことから、日本の端の都道府県には特に固有種が多く存在することがわかると思います。

 次はレッドリストにおける科の割合についてです。
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図4.絶滅危惧類の多い科ベスト10

 図4.はレッドリストに登場した科を、多い順に10個並べたものです。ラン科が圧倒的に多いですね。それを裏付けるようなデータが図5.です。
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図5.絶滅危惧ⅠA類におけるラン科の割合

 図5.は絶滅危惧類の中でも特に最も絶滅の危険の高い、絶滅危惧ⅠA類(CR)における、ラン科の占める割合です。CRには100科ほどの植物がリストアップされていますが、ひとつの科だけでその約20%を占めてしまうとは、非常に大きな値なのではないでしょうか。ではなぜラン科がこれほど絶滅の危機に瀕しているのでしょうか。ラン科はそれほど野生で強い植物ではないことも考えられますが、なにより美しい、またはお金になると言う極めて身勝手な理由で盗掘される個体があまりに多いからでしょう。それを裏付けるかのように、ラン科の植物の衰退要因は、60%以上が園芸採集によるものだとする報告があります(鷲谷いづみ・矢原徹一(1996)保全生態学入門 p60 図2-11)。自然レポート第1回で、盗掘について述べました↓。 
     http://www.interq.or.jp/jupiter/forest/report/1/report%201.htm

 今度は変わってその他の植物(蘚苔類・藻類・地衣類・菌類)に関するデータ解析結果です。レッドリストでは植物を大きく維管束植物とその他の植物に分けています。ただしその他の植物では生息地の表現が曖昧で、各都道府県にどれだけ絶滅危惧類があるかといったことはデータの信頼性が乏しいことからここでは掲載しません。それに代わって、維管束植物では見られなかった面白いデータが得られたのでそれを紹介します。
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図6.絶滅危惧類の数に対する「和名無し」の割合

 これはタイトルを見れば分かるのですが、その他の植物の各類の絶滅危惧類の数に対する和名無し(和名がついていない)個体(←種類の誤り)の割合です。特に地衣類では20%近くにも達しています。このレッドリストに載っていると言うことは少なからず絶滅しかかっている(中にはすでに絶滅しているものもある)にもかかわらず和名すらついていないものがあるのです。やはり目に付きやすい維管束植物と比べ、はるかに研究が遅れているのでしょう(維管束植物には「和名無し」はひとつも無い)。

 この様にレッドリストからは様々な事を読み取ることができます。こうして現在の生物の危機を認識したら、そしてそれを守りたいと思ったら、どんな小さな事でもいいから何か始めてみてはどうでしょうか。

参考資料
植物版レッドリスト(環境庁のホームページから)
保全生態学入門 鷲谷いづみ・矢原徹一 著 文一総合出版

文 H.I           special thanks to S.A

以上、引用終わり。

付録:「野の花賛歌」http://hanamist.sakura.ne.jp/index.html
   「絶滅危惧種情報」http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html
「薬用植物に絶滅の危機が迫っている」http://www.mypress.jp/v2_writers/beep/story/?story_id=1697988

入力者コメント

  「レッドデータ(RD)ブック」(環境庁, 1989)が初めてまとめられた時に意外な絶滅危惧種として注目されたのは、高山植物などではなく、低地の水辺の植物でした。元もと少ないと知られる高山植物などは、尾瀬や白馬岳に代表されるようにそれなりの保護策が取られてきました。
 しかし、沼や川岸の美しくもない植物は、河川改修や河川敷の「整備(グランドや公園化)」で生育地を無くしていたのです。自然の河川は、ちょっとした大雨で川の流路が変わり、土砂が堆積します。こうした湿性裸地を選んで生える植物は、砂防ダムなどの河川改修で氾濫が起きなくなると、それまでは副次的に侵入して生育地とした水田が主な生育地となり、水田雑草として生き残ってきました。ところが、水田に除草剤が使われるようになると、姿を消したのです。
「自然の変化ではなく、人間社会の変化に従って変えられる環境が野生生物を絶滅させるかも知れない」
と理解することは、環境保全の第一歩だと思います。
 図5・6に絶滅危惧種について両極端な2例があります。
1)花が美しく、園芸的価値から集中的に採取されて絶滅に瀕する種。
2)園芸的価値は皆無に等しく、ゴミのような扱いで和名無しのまま開発などで生育地を失い、絶滅に瀕する種。
1)は注目種、2)は無視種なんでしょうかねえ‥‥‥‥。

ここで、「絶滅の質」について悪い順から考えてみます。

(1)専門家も気づかず、種として認識されない内に絶滅(最悪:標本も記録も残らない。もともと、あったことも知られない種だから、保存対策も取りようがない。何が絶滅の原因かも、当然知られることはない)。
(2)専門家だけが知っている内に絶滅(学名だけで、和名のない種。標本と記録は残る。絶滅の原因は見る目が少ないので、推定するぐらいはできる)。
(3)専門家もシロウトも知っていて絶滅(和名のある種。シロウトも知っていて、見る目も多いから、絶滅の原因はかなりの程度分かる)。
 
 (3)の場合、花が美しければ盗掘の恐れはあります。しかし、絶滅に至る前に、環境保護団体などが、運動を起こすこともできます。少なくとも、そういう運動を起こす社会的基盤があります。
  また、
「トキが生存できた環境とできなくなった環境とは、どう違うのか?」
「できなくなった環境とは、どういう時代的要請によって形作られてきたのか?」
と、一部の専門家ならずとも問題を立てることができます。

つまり、「原因不明の絶滅のさせ方は極めてマズイ。しかし、絶滅させたことすら気づかない状態は最悪だ!この場合、絶滅の事実もその原因となった環境の変化も認識されない。」と私は考えています。


 そういう訳で、環境の変化に対する目を養う点から、絶滅危惧種について理解を深めることには異論はありません。

 ここで紹介した記事は、盗掘防止に熱心なことが特徴的です。ラン科に限れば、園芸目的による盗掘が減少の主な原因です。しかし、ラン科以外の植物については、圧倒的多数は開発行為が主因です。量的にも、盗掘の比較になりません。盗掘の場合、まだ種子や苗は残るかも知れません。開発では、林冠や表土がゴッソリ失われ、生育地そのものが消失します。開発地が、そこにしかない湿地の場合、湿生植物にとっては致命的になります。