国際的な黄砂観測網の構築に見る中国のオソマツ

コーヒーさんから以下の記事についてお知らせがありました。ここでは、この記事の背景について、考えてみましょう。

黄砂予報精度かすむ、国家機密と中国がデータ提供拒否

2月16日14時34分配信 読売新聞

 
春になると、中国大陸から飛来する黄砂を日本、中国、韓国、モンゴルの4か国で観測し、環境省のホームページ(HP)で飛来状況を公表したり、予測したりする計画が、当初協力を約束していた中国が「離脱」したため、精度を確保できない見通しになっている。

 中国側が「気象情報は国家機密」として、データの提供を拒否したためで、HPは、肝心の発生源の情報がないまま今月下旬の本格運用を迎える。

 黄砂が飛来することで、中国や韓国では、住民の呼吸器系の健康被害が相次ぎ、日本では、九州を中心に洗濯物が汚れたり、精密機器の工場で不良品の発生率が上がったりするなどの実害が出ている。福岡県保健環境研究所(太宰府市)によると、昨年4月初めに観測した黄砂では、同県内で大気が薄い褐色に変わり、粉じん濃度も一斉に基準値を超えた。

 気象庁では現在、黄砂の飛来状況について、全国85地点で観測した情報を発表しているが、目視確認のため国内に飛来した時点の情報しかなく、正確な飛来量も予測できない。

 このため環境省では昨年春、HP上で「黄砂飛来情報ページ」の試験運用を始め、今年2月下旬から、中国と韓国の各1か所、モンゴルの3か所、それに日本の10か所の観測地点のデータをもとに、地上から上空6キロまでの実際の飛来量や、黄砂の予想分布図を公表する予定だった。

日本の黄砂予報の精度は、あまり高くない

「黄砂予報の精度を実測値から検証する(07/5/25-27松江市の事例を中心に)」
 なお、この分野の技術は日本が世界のトップレベル。ちなみに、2007年11月から気象庁の天気予報に使われているコンピュータプログラム「全球数値予報モデル」は、解像度が20Km四方と世界で最も細かい(英国:40Km、米国:35Km)。これで、局地的な予報精度は高くなる。
 
中でも、中国の観測地点は、日本への飛来ルート上の首都・北京にあるため、日本への飛来量について精度の高い予測を出すには不可欠だったが、試験運用を始める直前の昨年4月、中国側から突然、データ提供をストップすることを通告された。

 気象観測データは国の安全と利益にかかわる機密情報として、あらゆる気象観測データを国外に持ち出すことを禁じた法律「気象局13号令」を施行したことが理由だった。この状況は現在も続いており、今月下旬から始める本格運用でも、中国でどれぐらいの量の黄砂が発生しているのか、発生源のデータがないまま、飛来量を予測することを余儀なくされる。
最終更新:2月16日14時34分

さて、この記事の意味をこれまでの行きがかりの中でとらえてみましょう。

 2006年12月20日に、「日本は中国に『酸性雨・黄砂の観測機材を8億円出して買ってやる』」というニュースがありました。
 http://charge.biz.yahoo.co.jp/vip/news/jij/061220/061220_mbiz028.html
う~む…、「データの共有」なんて、そんなに目論見通りに行くのかな…?
 そこで、これまでの半年ばかりのこの件の周辺を探ってみました。

2006年9月7日

中国、「2004年の環境汚染での経済的損失は7.5兆円」と発表。中国が汚染実態を金額に換算して発表するのは初めて

  http://live14.2ch.net/test/read.cgi/wildplus/1157642065/
このニュースについて、ある女子大教授はこんな風につぶやいている。
  http://iiaoki.jugem.jp/?eid=131
靖国問題で自ら要人会談をできなくした中国が、ポスト小泉に向けて「おねだり」始動?

2006年12月9日

麻生外相は、フィリピン・セブで中国・李外相と会談。互恵協力の一環として、無償資金協力を近く決定すると表明

http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/061209/chn061209000.htm
無償資金協力とは、「お金をあげる」ことです。
  http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%CC%B5%BD%FE%BB%F1%B6%E2%B6%A8%CE%CF
  日本への黄砂の到達日数は増えており、その観測にはレーザー光を使うと精度が高まる。この観測機器を「ライダー」という。
2006年12月20日

外務省、中国の「酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワーク整備計画」に対して、無償資金協力を発表

 外務省の言い方。
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/18/rls_1220b.html

2007年1月13日

中国政府、「気象探測・資料管理規定」を1月から施行。「中国国内の気象観測データは国家機密に属し、その公表には中国政府の許可を要する」というもの

  http://blogs.yahoo.co.jp/tatsuya11147/28977733.html

2007年4月

中国政府は、「酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワーク整備計画」での合意に反し、環境省の「黄砂飛来情報ページ」試験運用の直前になって、日本に「黄砂データの提供をしない」と通告してきた。

 中国は、日本の政府開発援助(ODA)の無償資金協力で、新たに7か所に観測機器を設置して黄砂の観測網を充実させる予定だったが、これも2007年5月に中止し、日本が準備した2億5000万円の無償資金協力(2006年度)もキャンセルとなった(読売 08/2/16)。

2008年2月16日

読売新聞は、今月下旬から始まる環境省の「黄砂飛来情報ページ」の本格運用で、「中国のデータがないままの黄砂予報になるので、予報精度が落ちる」と報道した。

それが、今回冒頭の記事です。
   http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080216-00000031-yom-soci
読売は、去年の4月に分かっていたことを、なぜ今頃になって発表するのだ!?
 日中韓3か国は先月、黄砂の共同研究に乗り出したが、このままでは発生源のデータはモンゴルのみになり、今後の研究にも影響を与えそう。
 環境省環境保全対策課は「中国からは『北京オリンピックがあるため、研究目的に提供できることになったとしてもホームページでの公開は難しいだろう』との情報を得ている」と話している(2008年2月16日14時34分 読売新聞)。

まとめ
1)東アジアの酸性雨問題について、日本が中心となって「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」を設立し、各国は共通の手法により酸性雨観測を行い、データを共有することとしているが、中国の観測態勢は不十分。

2)中国・モンゴル・韓国・日本の4カ国と国連環境計画等国際機関が協力し、「北東アジアにおける黄砂の防止と抑制」で技術支援プロジェクトが実施されている。4カ国はこれに沿って黄砂モニタリングを実施し、データを共有することが合意されている。しかし、黄砂の予報モデルを開発する上でのデータが不足している。

3)中国国内のモニタリング水準を向上させることを目的として、中国政府は「酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワーク整備計画」を策定。「観測に必要な機材をそろえるために資金をクレ」と日本政府に要請してきたもの。

4)日本政府は「金は出しましょ」と言った訳だ。

5)その後になって、中国政府は「気象データは国家機密」とし、「データの公開は中国政府の一存による」と法律で定めたというもの。中国政府に都合の悪いデータは、隠蔽するのは明白。北京五輪あたりまでは、なんとかごまかせると思ってるんじゃないか。そのあとは、ケツまくってお得意の開き直りか?

「まとめ」のここまでは、2007年3月7日のこのブログの記事の前半を載せたものです。

「日本は中国に『酸性雨・黄砂の観測機材を8億円出して買ってやる』ですと…」
http://blogs.yahoo.co.jp/tatsuya11147/29770746.html
 その後、新たな展開があった訳です。1年近くも前に!!!

↑の「まとめ」に以下の6)を追加しておきます。

6)中国政府は前言を翻して、2007年4月になって「黄砂データの提供はしない」と言ってきた。まさか、北京五輪前にこう出てくるとは思わなかった。2007年1月の「気象探測・資料管理規定」制定は妙に気になったが、やはりインチキの準備だったか。こんなことでは、酸性雨硫酸塩エアロゾル)についての情報共有も、どうなるか知れたものではない。と言うか、報道されないだけで、「酸性雨」もダメになっているんじゃないのか?2006年12月20日に文書上で合意した「酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワーク整備計画」の

8億円は、どうなるのだ?


 2006年12月20日の合意について、実務がどこまで進んでいるのか情報が少ない。
「黄砂データの提供はしない」と中国側が言ってきた2007年4月の時点で、日本の外務省がどう対応したのかも、報道されていない。資金日中のやり取りについて、どなたか、「現状はどうなっているのか」教えていただければ有り難い。なお、外務省のHPには、この件についてのその後の説明はない。
http://www.tokyovalley.com/yahoo_blog/article/article.php